アニュアルレポートに対する幻想

比較的規模の大きな企業のIR予算の中で、相当の%を占めているのが、このアニュアルレポートではないでしょうか。ARとは、企業の経営情報+業績・財務情報(監査レポート付き)を英文(今は和文もあり)で作成し投資家やアナリストに配布するものです。見本となっているのは、US企業のもので、SECが株式を公開したりワラントを出している企業に対して求めるディスクロージャーの10-Kや20-Fに準拠しています。(欧州企業の場合は、現在ほとんどIFRSベースです。)

詳細は省きますが、1980年代から90年代中ごろまでこのアニュアルレポートを発行することをIRと思っている日本企業が多くあったのです。ワラントの幹事証券やカストディに配布していましたが、これらの機関がその先の投資家まで届けることはあまりありませんので、ほとんど必要とする投資家の手には渡っていなかったでしょう。しかし15年くらい前から海外の投資家リストが割と手軽に入手できるようになり、企業は直接投資家やアナリストに届けることができるようになりました。企業と投資家・アナリストの間には、情報格差(情報の非対称、情報の爬行)が存在しますし、情報の非対称性が大きいと企業に対する割引率が高くなって、株価の押し下げ要因になります。ARは、詳細な企業情報が得られるという点で優れたツールといえますが、しかしどのように内容のあるARであっても、それだけで投資家の企業理解度が上がる訳がありません。バフェットは株式を保有していたり、投資を検討する企業のARは必ず読むそうですが、それでも『保有』や『投資を検討』という制限があります。

ARは数ある開示ツールの一つであって、それだけで効果の上がるものではありません。基本は日常的な情報開示をきちんと行うことで初めてARも信頼性のあるものなります。ある有名な投資家は、所詮企業サイドが作成したものだから、自分たちに都合の悪いことは書いていないだろうと思って読んでいるといいます。ARに戦略を書いているから、達成度を明確にしているから、期待値が上がるというものでもなさそうです。

その点欧州ではSDレポート(日本でいうCSRレポート)とARを統合したレポートを発行し、ストレートにクレド、戦略、イノベーション、パフォーマンス、といったタイトルで1年間の活動をよかったことも訴訟などのネガティブなことも詳細に記載しています。日本でも武田薬品さんがやっておられるようです。

もし、ARに特別な役割を求めるならば、まず、常に投資家との関係を密接にとっていること、コンテンツで各ステークホルダーに対して、自社の経営内容で特にリスクとなる点にしっかりと触れることでしょう。そうすれば、情報の爬行から発生するリスクプレミアムの多少の削減にはなるでしょう。

IRは冊子がやるのではなく、人間が実践する活動です。どのような分厚い、あるいは内容の優れたツールでも、人間が直接会って話すプレゼンテーションほどの説得力は期待できないと思います。

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