IR学会でのIFRSに関する議論

 今回は、2月6日に一ツ橋大学で行われたIR学会(http://www.jasir.jpn.org/)の内容から、企業財務委員会佐藤行弘審議員の基調講演をご紹介します。筆者は当日所用で出席していませんので、出席者の議事録から所感を交えずサマリーを作成しました。講演で述べられた内容を語彙も含め忠実になぞっていますが、当ブログの文章に関する責任は筆者にあります。この点、ご了承ください。
 基調講演で述べられた佐藤氏の問題意識は、「各国の状況をみると、IFRSはネガティブな要素を多々含む会計基準である。その中で日本だけがコンバージェンス作業をコツコツやってきて、逆に先行し過ぎて孤立感を深めつつある現状がある。」というものです。以下は講演のサマリーです。

1. エンロン事件の教訓とリーマンショックの反省
(1)エンロン事件
●時価(公正価値)会計と特定目的会社の悪用
  実態は赤字でも巨額の利益を生んだように見える仮想将来価値体系で巨額の負債を負う。
●株価一辺倒の目先重視の経営は、証券アナリストをはじめ、社会も見抜けなかった
  アーサーアンダーセンも崩壊に導いた。
●四半期開示による短期志向の経営。
(2)リーマンショック
●住宅の仮想利益(値上がり)による個人消費の過熱と短期志向のレバレッジ経営の蔓延
●複雑な金融商品と不透明な公正価値評価
●ずさんな格付け
以上の要因からリーマンブラザーズは64兆円の負債、チャプター11(米国版破産法)を申請

2. IFRSのキーワードとどの限界、IFRSの特質とその影響
(1)キーワード
●比較可能性、理解可能性、透明性、ハイクオリティ、シングルセット、グローバルスタンダード
IFRS推進論者は上記のキーワード6つを使ってその有用性を唱えている。
しかし、厳密には実現されないし、これからも実現していくのは難しい。
(2)IFRSの特質
●資産・負債重視
特に製造業は従来の会計はPL重視であり、IFRSは損益軽視の会計基準であるといえる。
●保守主義思想の後退
●投資家等のマーケット重視
企業の価値評価においてデューデリジェンスに近い。従前の会計基準は企業を育てる方針といえるが、一方でIFRSはいかに企業を売り抜くかという会計方針である。
●企業価値の測定、予測主義会計(公正価値、見積もり、確率手法等)
公正価値の重視は使い方次第でエンロン事件を再発させる。IFRSでは見積もりの範囲も広げている。確率手法に関しては、収益だけでも潜在的価値の確率を使うようにというルールであり、リースの場合はどうするのか。
●定義があいまいな原則主義
監査法人のガイドラインも含めると原則主義にはならない。
以上のように、IFRSの特質は理論・理念先行であり、現場を無視した会計方針であると言える。

3. 日本はIFRSをどのように受け入れるべきか
(1)IFRS受け入れに温度差
ASBJで検討中であり、中小企業ではIFRSを遮断するなどの意見が出ているが、
大体5つのグループに分かれる
①IFRS丸呑みで受け入れるグループ
②大義名分のもとでIFRSを意図的に推進するグループ
③自律した信念をもって受け入れるグループ
④面従腹背での消極的受け入れグループ
⑤反対グループ
(2)日本の伝統的会計文化を基礎に自律(+自立)したIFRSの受入れをすべき
●会社法(旧商法)~ドイツの商法典がモデル
●会計制度~戦後、日本の会計思想を連綿と構築
●企業経営~戦後、米国より合理化、省力化思想を取り込む。
(高度経済成長時代、厳格なコスト管理でPL重視の会計)
●税務会計~シャウブ勧告以来、税会(税務会計)との親和性尊重(確定決算主義)
受け入れの着目点 
●トライアングル体制*1
●保守主義と実現利益重視の思想
●第一義的に損益、PL重視の経営
(3)日本はなぜIFRSを積極的に受け入れるのか
●会計は何のために、誰のためにあるのか
マーケットのためだけではなく、ステークホルダーへの情報提供のためにある
●会計制度の方向付けは国家戦略に相当するテーマである。
国益と大局感をもった対応と会計制度枠組みの構築
日本の事業、経営、経済を守れ
(4)日本の経済成長に必要と思われる会計上の視点
●技術立国の強化。技術開発を大事にする風土
●長期視点の経営(特に製造業)
最近目先志向の経営になっているが、実は米国のアナリストも長期的視点に立った会計情報を望んでいる。
●中期的な雇用の維持・拡大
期末の公正価値評価にIFRSは大きく影響される。するとリース業界そのものが立ちかなくなるなど、会計基準が事業をつぶす憂慮
●製造業の地道なものづくり文化、現場重視の文化の保持。合理的なコスト形成の堅持
IFRSをもとに運営すると、コスト形成にダメージの影響
●保守主義と実現損益の重視
●国家主権に係る税制と会計制度のリンゲージの堅持
(5)国際情勢と日本の現状の課題
●米国、EU、インド、中国、カナダ、オーストラリアの動向
米国ではSECスタッフがワークプランを立て、2回目のプログレスレポートにおいて、米国での多方面に亘る影響を評価。その結果、2010年12月、SECスタッフのコンバージェンス+エンドースメント(承認)を提唱。すなわち、時間をかけて受け入れられるところは受け入れる。米国基準のルールベースを継続する発言。
EUでは、ドイツ・フランスでは単体決算ではIFRSを強制適用。
インドでは、アドプションしないと名言(実際に適用できない基準はアウト、と一線を画す姿勢)。
中国では、国内の製造業を発展させるためにIFRSを全面丸呑みすることはない、と実質様子見の姿勢。
カナダはIFRS先進国だが、SEC上場企業は米国基準を適用してもかまわない、としている。
オーストラリアは、IFRS先進企業だが、IFRSは基礎的利益を反映していない、という認識をもっており、実際悩みながら適用している。

4.今後の課題
●コンバージェンス、アドプションと適用対象企業の範囲、導入時期とのリンケージをふまえた一体的議論の必要性。
①フルアドプション、②一部カーブアウトしたアドプション、③コンバージェンスの任意適用(対象企業の上場3700社に適用、と豪語している人がいるが、一部の上場企業だけ、または任意適用。あるいは、ヨーロッパで資金調達する会社だけでよいのではないか。)
現在、上場企業の1500社超が方針を検討中である。この検討のために、日本で無駄な社会的コストが発生する懸念。しかも、ルノーの持分法適用会社である日産ですら、IFRSの導入に4年かかったのに、実際に残された導入作業は1年半しかない。
●連結決算・単体決算のあり方、会社法431条の解釈
日本の中小上場企業の単体決算は、IFRSの特質である公正価値と見積もり予測で不安定になる。
●IFRSをふまえた証券市場のあり様
●IFRSは特に日本の製造業にとってベターではない。任意適用(コンバージェンス)で十分ではないかと思われるが、最終的な落とし所の確定にはもう少し時間がかかりそうである。

注記
*1 トライアングル体制について以下を参照
あずさ監査法人 企業会計講座
http://www.azsa.or.jp/b_info/ps/kouza/kaikei_ouyou_02.html

以上



 

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